第3話 行けるところまで

イラクへの長旅

旅程は、オランダのアムステルダム空港で乗り継ぎ、ヨルダンのアンマン空港に向かうというものだった。アンマンからイラクのバクダッドまでは、約15時間の陸路を使う。飛行機でいけばイラクまで1時間くらいで着くようだが、週に3便しかないので時間のロスを考えて、私たちは危険な砂漠道を選ぶことになった。

オランダまで、「右助訪イラク団」一行はKLMオランダ航空に乗った。飛行機に一歩足を踏み込むと、「もう行けるとこまで行くしかない」という気持ちになった。実際、外務省は昨日バクダッドからの退去勧告を出している。にわかに戦争開始の雰囲気が濃厚になったら、私たちはアムステルダム空港、もしくはアンマンの空港で日本に引き返すことになるかもしれない。一番、恐れているパターンは、私たちがイラク入りしてから戦争がはじまること。そうなったら、無事帰国するのはむずかしくなるだろう。

前日、安全保障理事会の生中継をテレビで見た。フランスとドイツが明確に攻撃に反対をしたため、米英の単独奇襲攻撃の可能性も高くなってきていた。安保理の決定ならば予測はつくものの、米英単独の行動は、はかれないものがあった。

離陸

よもや戦場カメラマン 写真3-2クレアさんほかテレビクルーの人たちと離れて、一人エコノミークラスの席へ。テレビ局の人たちは仕事でいくので、ビジネスクラスだった。自腹きってイラクに行こうという私は、早くもここで心細くも1人になってしまった。

運悪く3人席のセンターだった。両隣の人たちも、どうやら「右助イラク訪問団」らしい。左隣の椎野さんは、左翼系の書籍などをてがけたことがある編集者で、右隣の吉沢さんはどうやらまだ大院生らしい。安保理問題を研究していて、この間北朝鮮にも行って来たという。

周りの人たちと話していると(9割5分男性ばかりだった)、さっきまでの緊張がじょじょにとけてきた。みんな立場は違うけれど、同じ方向に向かって進んでいる同士だった。それぞれ、この日を迎えるのにいろんな迷いや不安や恐れと戦ってきたと思う。このイラク行きの決断は、誰に命令されたのでもなく一人ひとりの決断にちがいなかったから。


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