第2話 なんだか悲しくなりました

絵本をかかえてボローニャへ

アタタタ…それでも前へ

絵本をかかえてボローニャへ 写真2-1会場内は世界から集まった人たちでザワザワと活気があふれていた。でもわたしときたら、20歩くのが限界で、イスをみつけると座り込むというカメのような歩みで進んでいった。

「ボローニャの公募展」に入賞した作品が展示されているブースはすぐそこだったけれど、またもや座り込み、必死になってイタリア語の本をめくっていた。「腹痛・薬・このあたりが痛いです」単語をみつけてはノートに書き込み、斜め前にある薬屋らしきものをみはっていた。「薬を飲んで楽になりたい。でも外国の薬は合わないかもしれないから怖い」そんな気持ちで。
こんな広い会場で、たった一人で、具合も悪くて、どこにいっていいのかもわからなくて、かなり心細い。泣きたい気持ちだった。

「いったいここに来るまでいくらかかっていると思うんだよ。お金も時間も。仕事までやめて…」そんなふうに考えると、前かがみになりながらも進んでいくしかなかった。
展示会場の入り口には、仕事がほしいイラストレーターたちのアピールボードがたっていた。自分の連絡先がはいった名刺やハガキがたくさん貼りつけてある。こういうのがあることは、事前に知っていたので、ボローニャのために作ったイラスト名刺を、すでにほとんど隙間のなくなったボードに貼り付けた(ハサミとテープと糊を持参、準備万全!)。

入選作品を見る

絵本をかかえてボローニャへ 写真2-2ぼちぼち作品展示会場を歩きはじめた。

海外旅行にいくと日本人が多いなと思うけれど、このボローニャ展の入賞者ももそうだった。応募者も、開催地であるイタリアと並ぶくらいの日本人がいると予想される。日本人の応募者数が増えたこと、作品レベルが上がったことはきっと「板橋区立美術館」の貢献だろうなと思う。

わたしがボローニャに行こうと思ったのも、板橋美術館の影響が大きい。「5枚1組の物語のあるイラスト」というのがボローニャ展の規定。絵本の中の5シーンを抜粋した形だ。イラストが主役のせいか、言葉はほんの付添え的な印象がのこった。でも、さすがに世界から選ばれた作品だけに魅力的で「わたしの絵はまだまだ、まだまだだなー」と感じた。
選ばれた作品たちのなかで、実際に絵本出版までいけるのは数えるほどだというから、ほんとうに狭き門だと思う。

打ちのめされて

絵本をかかえてボローニャへ 写真2-3痛いお腹をおさえながら、次なる会場へ移動した。世界の出版社が各ブースを出し、版権の商談や出版物の見本販売、ピーアールなどをしている。出版社の数の多さと、会場の広さと、飛び交う外国語と、ビジネスムードむんむんの空気にのみこまれ、わたしはすっかり怖じ気づいてしまった。

「いったいわたしは、この巨大な世界を相手に何をしようとしているのだろうか?」
2年前にかいたイラクの絵本と、子どものお絵描きみたいな数枚のイラストだけをもって、よくこんな大舞台にのりこんだものだと、なんともいえない不安と絶望を感じてしまったのだ。

打ちのめされた気分で、ヨロヨロと会場の中を歩いた。
ここにくるからには、もっと綿密な準備が必要だったんだ。
「ボローニャにいけば世界の出版社と交渉ができる」って、なんてたいそれた夢なんだ。
自分がここにくるには10年早かったことを、英語の商談の飛び交う会場で涙ながらに悟ったのだった。


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