第6話 イラク国境へ

フセインの肖像と対面

よもや戦場カメラマン 写真6-1車が走り出して5時間くらい経ったところで、ヨルダン国境にきた。ここで出国が終われば、少し車を移動して、いよいよイラクへの入国審査だ。ヨルダンの出入国管理所は、区役所の窓口みたいな素朴な事務所だった。少しだけ待たされたが、案外スムーズに事はすすんだ。待合所はタバコの煙が苦しいので外に出ると、夕暮れの風がひんやり砂漠を包みはじめていた。日本のスズメの1.5倍くらいある小鳥がチュンチュン飛び跳ねているのを「かわいいな」と思いながらぼんやり眺めた。

全員のパスポートが返され、私たちはイラクの管理事務所に足をふみいれた。VIPルームと称する待合所には、壁の幅と同じくらの大きいフセイン大統領の肖像画が飾られていた。写真撮影の許可が出ると、みんないっせいに肖像画をバックに記念撮影をはじめた。なんだか観光客みたい…。

なぜ自分がここに?

待合所のイスに座って、今回同行したメンバーたちを改めて眺めてみた。連合赤軍派の塩見さんは、仲間たちに囲まれて「昔はみんなピュアーだった!」と息まき、ミニスカ右翼と言われているフリーライターの雨宮女史は鼻にピアスをした男のたちを従え、見るからにおたくなおじさんはやたら室内の写真をとりまくっていた。

そもそもイラクに訪問する話をもちかけてくれた右助親分は右翼の親分みたいだし、このメンバーは明らかに、私が東京で普通に生活をしていたら会えない人たちだ。みんなそれぞれに強烈なポリシーがありそうな人たち。クレアさんとTBSの二人は「イラクの要人とのインタビューを撮る」というはっきとした目的がある。

私が今、ここにこうしてイラク国境のソファーに腰掛けていることはなんだか理解しがたく、間違えて紛れ込んでしまった小さなネズミのような気持ちでいた。


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